芸術のインスピレーションのちから

患者に提示されるものの色の状態や鮮やかさが、実際的な回復の手段となる。」
フローレンス・ナイチンゲール

私が大学生のとき参加した最も思い出深いデザインプロジェクトの一つに、
古代 ギリシャのAesclepian病院のコンセプトに基づいたレストランがある。
ヘルスケアの分野にフォーカスすることを決めるずっと前に、
私は古代ギリシャ 人がアートのあらゆる形態に身を浸すことが
治癒的な要素だと見出したことに魅了されていた。

彼らは、患者が何日もかけて自然と美の中で笑いから涙までの極端な感情を味わうことが、
からだにとってカタルシス(浄化)になると信じていた。
その考えに共感し、わたしはずっとそれにとらえられていた。
古代ギリシャでは、癒やすためにヒーリング・テンプルを
訪れるものも多くいたが、だいたいそれは家庭で行われていた。
これに関連して興味深いのは、テクノロジーによって将来的に多くのヘルスケアが
家庭でできるようになると今議論されていることが、既に行われていたことだ。

ギリシャ人は癒しをスピリチュアルであり、肉体的なプロセスと捉え、
病気は肉体的、精神的なものであると考えていた。
精神を癒やすために、彼らはその治療手段として、
特に音楽を聞くことを取り入れていた。
脳がセンセーションを感知し、こころと体をつなげる思考と記憶に
関係しているという理論を有名にしたのは、ギリシャの哲学者であり、
外科医のAlcmaeonだった。

ところで、今月号のヘルスケアデザイン誌のテーマは
アートワークのプランニングと購入に関するものだ。
アートをヘルスケアの現場に導入することは次の点で重要である。
それは患者、スタッフ、そして家族の満足を増大し、痛みの知覚を軽減し、
ストレスやうつ病にポジティブな結果をもたらし、
また、慈善団体やコミュニティ制作のアートプロジェクトをとおして、
コミュニティに参加の機会を与える。

ヴィジュアルアートの他に、パフォーミングアートもまた
ヘルスケアにおいて一役を担い、今もそれは続いている。

ヒーリングヘルスケアシステムズ代表のスーザン・メイザー氏は、
Long-Term Living誌2003年9月の記事で音楽の持つ多くの恩恵は人々をつなげ、
長期にわたるケアが必要な環境によく見られる孤立感を緩和すると述べている。
メイザー氏はまた、老年学の環境における適切なライブパフォーマンスがもたらす生理的結果のレポートとして、
うつ病の緩和、興奮の減少、認識力の増大、記憶の刺激を指摘している。
さらに、音楽のパフォーマンスは、参加した家族やスタッフにも
同様に見られたということだ。

最後に、アートが病気を回復させるとしたら、あなたの日常生活にその恩恵を取り入れてみたらどうだろうか。
今週、映画やミュージカルを見に行ったり、地元の美術館に足を向けてみるのもいい。
アートとともに楽しいひとときが過ごせるに違いないだろう。

参考:
*Transforming the Healthcare Experience Through the Arts  
アートがヒーリングやヘルスケア施設に与える影響についての書籍

*The Society for Arts in Healthcare  
アートとヘルスケアの研究センターの ウェブサイト

by ヘルスデザインセンター代表&CEO Debra Levin

この記事の引用元 Healthcare Design
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世界の癒しのクリニック Vol.1

最近、イギリスのガン患者様のためのサポートセンターのお話を聞きました。
マギーズ・キャンサー・ケアリング・センター(以下、マギーズ・センター)
は、再発乳がん患者であったマギー・ケズウィック・ジェンクス氏の遺志を
引き継いだ人々によって1996年にエンジンバラに設立された施設です。
現在は同じ方式のセンターが全英9カ所、香港1カ所で展開し、
また、日本をはじめ、その他の国々に同様の施設の設置が検討されています。

マギーさんは生前「病人ではなく1人の人間に戻れる、そして死の恐怖の中に
あっても生きる喜びを感じられる小さな家庭的な安息所がほしい」と
望んでおられたそうです。そして、病院では提供できない部分を補完することが、
センター設立の目標でした。造園家で中国庭園の研究家だったマギーさんは
「建築と環境が人間 の心に深い影響を与える」ととらえていました。
そんな彼女の想いに添って、精神面を刺激し、回復させるような建物を造ることも
目的の一つでした。 そして、そんな彼女の遺志を支えるように、
日本の著名な建築家、故・黒川記章氏を始め、世界各国の建築家がボランティアで参加し、協力しています。

花と緑の豊かなガーデンを備えたマギーズセンターの建物はモダンながらも、どこか暖かく、
また、インテリアも家庭的なぬくもりを感じさせるしつらえになっています。
そんなリラックスした環境の中で、がん患者さんはいつでも心理サポートをはじめ、
センターが提供する様々なプログラムを受けることができるそうです。
身体だけではなく、こころ、それらも超えてホリスティックな治癒のための環境や
プログラムが整ったマギーズ・キャンサー・ケアリング・センターのような施設が
世界中にもっとできたらいいですね…。

そして、同じように人のこころに深い影響を与える癒しの音楽も、
クリニックをはじめ、世界中の癒しの現場に求められています。

マギーセンター内の様子

マギーセンター内の様子

マギーセンター

マギーセンター

参考:がんナビ http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/report
/201003/100458.html